内部告発をシリーズで検証していきます。
2回目は、「軌道修正のチャンス踏み潰す!」と題して石屋製菓を検証します。
石屋製菓を検証!
軌道修正のチャンス踏み潰す!
石屋製菓の場合、典型的な老舗の決断能力の“にぶさ”が露呈したものと思われる。
たまたま、ミートホープの事件が大きな問題になっていったので、監督者の速やかな対応に結びついたといっていい。
この事件の本質は、長らくやってきた不正が不正でなくなってしまった“錯覚”にあるようで仕方がない。
これまで、菓子類などは賞味期限ではなく長らく製造年月日であったことが、不正を看過してきた理由だろうと想像する。
食品の日付表示に関しては、平成7年4月から製造年月日表示に代えて、消費期限又は賞味期限(品質保持期限)の期限表示が行われてきた。
製造年月日表示のときは、日付を気にすることなど必要でなかったわけで、気にするとすれば古い製造年月日のものだけだった。
これを検査したりしていく中で、いつごろの製造日のものから危ないといった経験則ができあがっていき、処分なりの対応ができた。
ところが、一気に賞味期限という期限を設けなければならなくなったわけだが、賞味期限という期限は実のところ“曖昧”にならざるを得ないのである。
これは仕方のないことで、その日付でスパッと白黒が分かれるというわけではないからである。
しかも、安全に安全策をとって期限を決めているのであるから、期限がすこし過ぎたぐらいはなんでもないことなのである。
製造に係わった方なら理解できるかもしれないが、一般の人にとってはスパッと白黒が決められる“期限”なのかもしれない。
ただし、食品衛生法上「大腸菌」の取り扱いにおいては、神経質にならざるを得ない問題であり、けっして看過できるものではないのは言うまでもない。
甘い対応に伝聞調の一本の電話!
気温30度を越える真夏日となった昨年8月9日の昼過ぎ、札幌市保健所の食品指導課に一本の電話があった。
「アイスミルクのミルキーロッカーから大腸菌が検出されたらしく、製品を廃棄したようだ。上層部のみで、もみ消そうとしたらしい。よくないと思うので、保健所から注意してほしい」
札幌市の洋菓子メーカー「石屋製菓」のずさんな衛生管理を指摘する内容だった。
たまたま内勤をしていた20歳代の男性職員が電話を受けた。
告発というより、相談という感じの、やわらかい、ていねいな口調だった。
「思う」とか「らしい」とかの語尾が目立ち、情報源を尋ねても、「それはかんべんして」と言葉を濁された。
名前や所属部署を尋ねたが、「特定されると、まずいことがあるかもしれないので」と回答を拒まれた。
証拠もない。あいまいな伝聞の話しだ。
半信半疑の職員は、「どのような対応をとるかは保健所の判断に任せてほしい」と話しを引き取った。
その夜、石屋製菓の本社工場のある札幌市西区を担当する30歳代の中堅職員が出先から保健所に戻ってくると、このことが伝えられた。
石屋製菓は、北海道を代表するみやげ物として知られるチョコレート菓子「白い恋人」の製造元で、Jリーグのサッカーチーム「コンサドーレ札幌」のスボンサーでもある。
過去の例からも、報告すべきことをきちんと報告する優良企業とのイメージがあった。
「本当かな」。
中堅職員は情報を疑った。だが、すぐに頭に浮かんだのは、ミートホープの事件で、農林水産省や北海道庁が内部告発に対応できず、批判されていることだった。
「万が一ということもあるから、すぐに行かなければ」翌10日夕、他の仕事を片付けると、石屋製菓を訪ねた。
事前予告なしの抜き打ち検査はこうして始まった。
再三の通報無視 重い代償!
匿名電話の内容は本当だった。
札幌市保健所が石屋製菓に立ち入って調べた結果、
同社は自主検査でアイスクリーム菓子「ミルキーロッキー」から大腸菌郡を検出し、あわてて店頭から回収して約4トン廃棄していた。
にもかかわらず、消費者には何も知らせず、すでに売れた分は未回収のまま放置していた。
この立ち入り検査が一段落した昨年8月13日夜、さらに衝撃的な話が同社から保健所に電話で報告された。
看板商品であるチョコレート菓子「白い恋人」の得れ残りの包装を5月に取り換えた際、賞味期限の日付を1ケ月先に延ばした、というものだ。
実は6月下旬、この偽装工作を指摘する匿名のメールがホームページを通じて同社に送られていた。
7月中旬には、アイスクリーム菓子から大腸菌郡が検出された事実を指摘するメールが届いていた。
担当役員はそれらを無視していた。
保健所の立ち入り検査を受け、担当役員は8月13日夕になって初めて賞味期限改ざんの事実を打ち明けた。
14日夜、社長が記者会見して事実を公表した。
消費者に対する背信行為が大々的に報道され、道内のあちこちの土産物店で「白い恋人」の撤去が始まった。
16日昼前、チョコレートパイ菓子「美冬」(みふゆ)でも、賞味期限が付け替えられたと指摘する電話が、札幌市保健所に入った。
この電話の主は、「工場には絶対に伝えないでほしい」と匿名を希望しつつも、自分の名前や連絡先をはっきりと保健所に伝えてきた。
今回の「白い恋人」の報道を見て情報提供した、しいう。
この日、石屋製菓はすべての製品の製造・販売の無期限停止に追い込まれた。
11月、同社は販売再開を前に、社内のコンプライアンス体制の強化を発表した。
不正に関する従業員の匿名通報を社内外の窓口で受け付ける「内部通報制度」が目玉の一つになった。
最初の匿名メールを受けてから、5ケ月が経とうとしていた。